映画「THE GUILTY ギルティ」解説&ネタバレ感想 – 行き過ぎた思いの先にあるのは罪なのか。

映画

こんばんは。深夜のピザポテトはギルティ、さめおです。

今日、デンマーク発の映画「THE GUILTY ギルティ」を観てきました。アクションとかコメディメインの僕にとってデンマーク映画ってあまり馴染みが無いんですが、調べてみたら「ダンサー・イン・ザ・ダーク」とかもデンマーク映画なんですね!恥ずかしながら観た事無いんですけど…。という訳でさめおのデンマーク映画デビュー戦、まずはあらすじから。

あらすじ・予告編


過去のある事件をきっかけに警察官として一線を退いたアスガーは、いまは緊急通報指令室のオペレーターとして、交通事故の搬送を遠隔手配するなど、電話越しに小さな事件に応対する日々を送っている。そんなある日、アスガーは、今まさに誘拐されているという女性からの通報を受ける。車の発進音や女性の声、そして犯人の息づかいなど、電話から聞こえるかすかな音だけを頼りに、アスガーは事件に対処しなければならず……。

映画.com
映画『THE GUILTY/ギルティ』予告編

解説・感想

ジャンルとしては最近増えてきているシチュエーションスリラーに近いんですが、サスペンス色が強いのでシチュエーションサスペンス映画と言ったところでしょうか。

密室で進む事件

本作は緊急通報指令室のオペレーターが誘拐された女性から通報を受けた事で物語が動き出します。しかし主人公はオペレーターとしての務めを果たさなければならず、指令室から出る事はできません。そのためほとんどのシーンは主人公の表情や電話先の音声しか情報がありません。

最近だと映画の最初から最後までPCの画面上で展開する「search サーチ」という映画もありましたが、あちらはPC上に映像も出ていましたし、FaceTimeを使用して通話の表現をしていたりもしたので、情報量だけで言えば本作の方が圧倒的に少ないです。人が受け取る情報の8割は視覚からで聴覚は1割程度という定説もある通り、観客は事件の大部分を自身で想像しながら観るほかありません。

サンダンス映画祭 観客賞受賞

この今までに無い設定もあってか、本作は世界の映画祭で一際注目を集めました。その中でも特に快挙と言えるのが、インディペンデント系映画祭の中で最大級の規模を誇るサンダンス映画祭観客賞を受賞した事。これを皮切りに本作は世界中の映画祭で様々な賞を獲得していく事になります。

ちなみに本作が観客賞を受賞した第34回サンダンス映画祭では、前述の映画「search サーチ」も別部門で観客賞を受賞しています。個人的には今まであまり注目できていなかったのですが、このサンダンス映画祭は小規模公開映画を選ぶ上で一つの基準になりそうですね!

新人監督の長編デビュー作

このように世界中から称賛されている本作ですが、メガホンを取ったグスタフ・モーラー監督はなんと本作が長編デビュー作。また製作スタッフも彼の映画学校時代の知り合いが多く、大物俳優やプロデューサーなんかは絡んでいません。しかも撮影はほぼ指令室の中だけで役者もかなり少人数のため、世界規模で公開される映画としては極端に予算が少ないと思われます。

ちょっと前のハリウッド映画だと低予算で済むホラー映画からキャリアをスタートさせ、その後大規模映画へ挑戦する監督が多かったんですが、今後はこういったシチュエーション系作品からスタートさせる監督が増えてきそうな気がします。今大ヒット中の「アクアマン」を撮ったジェームズ・ワン監督も「ソウ」のトリックで一躍有名になった訳ですしね。アイディア一つで大作映画に負けない話題性も生めるのは、やっぱり大きいです。

感想

以下、作品の根幹に関わるネタバレもバンバンします。未見の方はご注意を。

脚本、お見事です!

最近乱発している感もあるシチュエーション系映画って、やっぱり話題性は抜群なんですよね。ただ中にはシチュエーションのみが面白くて脚本がついてこれず、尻すぼみで終わっちゃうケースもあります。特に本作のように極端に限定された環境だとそんな現象が起きやすい気がするんですが…。うん、そんな心配は杞憂でしたね!88分という短い上映時間も手伝ってか、全く勢いが衰える事無く、最後までうまくシチュエーションを活かしていたと思います。

正直演出面は風景が変わらないし主人公のアップ連発で若干のネタ切れ感があったのですが、それでも飽きさせずに展開されたのは脚本の力が大きいです。音だけという状況を上手く使って事件現場の状況や登場人物の秘密を上手く勘違いさせてくれました。イーベンの衝撃告白でガラッと状況が変わってからの展開も素晴らしく、終盤アスガーが自身の問題と向き合っていく描写は見事としか言えません!

行き過ぎた思い

本作の転換ポイントは間違いなくイーベンの告白シーンで、ここから映画の本質が変わったと思います。前半は主人公が誘拐犯を追うサスペンススリラーの王道とも言える展開ですが、イーベンの告白を受けてからはアスガーが今まで”してきた事“が”してしまった事“へ一瞬で変化してしまいます。もちろんアスガーは全て正義のために行っているのですが、そのほとんどが裏目に出ていたという最悪の展開。

正直彼の正義は少し常軌を逸しています。犯人だと思っていたミカエルへ電話をかけるのも普通であれば人質の命を考えて避けるべきだし、犯人逮捕のためとはいえ相棒に飲酒運転と無断の家宅捜索をさせるのも明らかにアウトです。彼の言い分としては事件解決のために必要な犠牲なんでしょうが、そのための手段が明らかに間違っています。そして彼はイーベンを諭す中でようやく自身の間違いにも気が付くのです。作中でも他人との関わりを絶つ演出が多かったのですが、きっと自身の間違いに自分だけでは気づけなかったのだと思います。

そういう意味で言うとイーベンも境遇は似ています。夫と別れて子供2人(しかも1人は赤ん坊)を育てるのは精神的に厳しいでしょうし、話の内容から察するに周りで助けてくれる人や比較すべき人もいなかったのでしょう。それ故に彼女が子供たちへ向けるは行き過ぎ、歪に曲がってしまい、結果として自身の息子を助ける事=殺して苦しみを取り除く事へと繋がってしまった訳です。

この2人に共通している事はどちらも本来プラスに作用する感情が爆発して、結果的に悪い方向へ向かってしまった事。本作のタイトルでもあるギルティはそんな2人の行き過ぎた思いを罪と表現しています。最終的にはと言える結果になってしまったものの、2人の行いを罪の一言で片づけるのは、少なくとも僕の心では難しかったです。2人が最終的に自分と向き合い、罪と向き合えたのは果たしてハッピーエンドなのか。観客へ大きな問いかけを残したまま終わり、僕自身も鑑賞後は頭の中を色々な感情が渦巻いていました。

表と裏、だけではない

ここで少し時事ネタを。少し前に上司や教師など上の立場の人間が放った暴言を録音しマスコミへ流す、いわゆるパワハラ炎上騒ぎが結構ありました。最初の報道では完全にリークされた側(上の立場の人)が悪者にされているのですが、その前後の会話なども合わせてみると様々な事情があり、彼らがであると一概には言えないものもいくつかありました。

なんでこんな話を出したかって言うと、本作もそれに通じるものがあったなぁと。主人公アスガーは自分の聞いた情報のみを信じ、自分の中の正義に合わせて動いたのですが、結果的にそれは片面の情報に過ぎず、事件の本質は全く違うところにあった訳です。これって前述の炎上騒動で自分の正義感を振り回し、偏った情報でひたすら他人を叩いているネット上の人そのものです。どんな事件にしろ、片面だけでの情報では不足しているのです。

しかも本作でアスガーは聴覚=1割程度の情報しか入手していない状態で、事件の全貌を決め込み、結果的にかき回してしまったのです。つまり僕らが普段ニュースで目にしているような情報は表ですらなく、氷山の一角なんですよね。おそらく氷山の全容を知る事は誰にもできませんが、自身の情報だけで決めつけず、多角的に物事を見てみる。そんな考え方も、愛や正義と同じくらい大事な事なんじゃないかなと思いました。

まとめ

評価:☆☆☆☆★(4/5) 斬新な設定と素晴らしい脚本。ただ映画としてはあと1つ足りないかな…

すみません!自分の考えた事ばかり語って、映画的な評価が最後までできていませんでした…。映画としては何度も文中に出した「search サーチ」と比較して評価できる部分が多いのですが、やはりエンタメというか映画として観る上ではちょっと足りない箇所もあったかなと。シチュエーションが限定的すぎるばかりに演出音楽など映画的な要素が少し犠牲となっていた気がします。しかし脚本は素晴らしく、”鑑賞後に色々と考え、議論できるシチュエーション映画”という今まで有りそうで無かった作品でもあるので、シチュエーション映画に飽きている映画ファンへもオススメできる作品ですね!

是非とも静かな環境でご覧ください。映画館で観るもの良いし、ソフト化されたらイヤホンで聴きながらとかも楽しそうです。

以上。ではまた。

コメント